すみだモダン×スタイルストア
建築物から日常生活品へ。漆工職人の新たな挑戦
誰もが知る目黒雅叙園の百段階段。その修復作業を任されたのは漆工職人である安宅漆工店の代表、安宅さんでした。そんな長らく建築物を中心に取り組んできた漆工職人が日常生活品を作ることになったきっかけとは。安宅さんに安宅漆工店のこれまでとこれからについて伺いました。
建築の漆塗りから始まり早87年
ーまずは安宅漆工店の歴史について教えていただけますか。
安宅漆工店は昭和10年に先代である父が始めた漆塗りのお店です。80年以上前、漆工職人であった父は独立して建築の漆塗りをずっと行ってきました。そんな父が病気で入院したことをきっかけに私も15歳の時に漆工職人として修行をスタート。定時制の夜間学校に転校し、昼は父の元で修行をするようになりました。通常、漆工職人は独立までに10年間の修行が必要とされていますが、私の場合は父が亡くなったことをきっかけに8年の修行経験しかなかったものの、漆工職人となったのです。
ー創業時から建築が中心だったとのことですが、これまで手がけてきた建築物などがあれば教えてください。
長野の信州にある善光寺や画家の竹久夢二記念館の年に1度しか公開されない特別記念室など様々な建築の漆塗りを担当させていただきました。特に有名で印象に残っている建築物はやはり目黒雅叙園の百段階段でしょうか。東京都の文化財に指定されているあの有名な百段階段の修復を、できる限りそのまま作品が残るよう依頼を受けました。修復には4年間かけて取り組んだこともあり、とても記憶に残っています。
湿度や気温に左右される漆塗り
ー現在は建築物だけにとどまらず、花瓶やアクセサリーなどの小物も手がけられています。どのような経緯で生活用品も作るようになったのですか。
きっかけは実演販売を行う際に、お客様が見て何か分かりやすいものがあった方がいいと思ったことでした。花瓶や器、アクセサリーであれば説明がしやすく身近に感じられると考えたのです。
実際に器を作り始めると、塗り方や色を工夫することでオリジナリティを出せることがわかり、建築における漆工の技術を活かした安宅漆工店ならではのものを作りたいと思うようになりました。
ーすみだモダンに選ばれたマグカップについても教えてください。どのような点にこだわって作られたマグカップなのでしょうか。
漆塗りのマグカップではありますが、普段使いしていただける価格にこだわりました。また、木製の木地を使っているため、軽く、落としても割れにくい特徴もあります。手にフィットするフォルムにもこだわりました。握力が弱くなっても安心して使えると、年配の方へのプレゼントとしてもご好評いただいています。
ーマグカップにも活かされている漆塗り特有の技術などがあれば教えていただけますか。
湿度や気温などに左右されやすいのが漆の特徴であり、難しい部分でもあります。漆は空気に触れることで色が変わるので年月が経つとまた異なった色味になるんです。塗り方によっても艶感やマット感を変えることができるのでこれまでの経験を最大限に活かして試行錯誤しながら作りました。
また、漆は塗ることで素材を保護する役割も担っています。傷がつきにくくなっているので安心して使っていただけたらと思います。
漆の良さを表現した、新しくて面白い商品作り
ー安宅さんが職人として大事にされていることを教えていただけますか。
素敵な作品があれば、たとえライバルの作品であったとしても粗探しをするのではなく、良い所は良いと認め、作品をよく見て勉強すること。そして自分の作品に何が足りないかを考えることです。昔から様々な作品を見るのが大好きだったのですが、それが漆工職人としての作品作りに活きていると思います。
また、ものづくりにおいてはまだ世の中にないものを作ることにこだわっています。建築が中心だった頃はお客様の声を直接聞く機会がなかったのですが、実演販売などを行う中でどんなものを作れば喜んでいただけるかを知る機会が多くありました。「安宅漆工店は面白いものを作っているよ」と言っていただけるよう、新しい良いものを作り続けることに注力し続けたいです。
ー最後に、今後の目標を教えてください。
安宅漆工店をもっと多くの方に知っていただくことが目標です。その手段の1つとして、オンラインストアの開設を進めています。
また、新しいものを作っていくという点においては漆の良さをもっと表現していきたいです。建築においては丈夫さを大事にしてきましたが、今後は日常使いいただけるよう軽さにも重視した商品をたくさんお届けできるよう頑張っていきます。
文・構成/松本佳恋
スタイルストアのお客さまに、日々の暮らしをアップデートするコツや、商品の選び方などのノウハウをご紹介するコラムをお届けしています。