バイヤーからのお便り
女性職人の思いやりが詰まったコート
立冬を過ぎて、やっとコートの季節がやってきましたね。最近は暖冬気味で、本格的なコートやダウンの出番がめっきり減ったように思います。今活躍しているのも、暑すぎず重すぎない、さっと羽織れる軽めのコート。そう、リバーシブルガウンコートです。
このコートを縫ってくださっている工房は、中国の張家港というところにあります。すべて手縫いで実現した、完璧なリバーシブルコート。その製造風景を見たいとお伝えしていたら、先日こんな動画が届きました。
今日は、商品ページではお伝えしきれなかった、このコートの魅力とそれを支える女性職人の皆さんのお仕事ぶりについてご紹介したいと思います。
手縫いだけじゃない、細やかな仕事
シルエットの美しさは「薄さ」がキモ
このコートの魅力の一つは、完全なリバーシブルでありながら、薄手で非常に軽いところです。一般的なリバーシブルコートは、かなり厚みのある生地が使われる為ずっしりと重く、縫い目のごろつきも気になるというケースが多いものです。
しかし、MBのリバーシブルコートは、1枚の生地の端を裂き、手まつりで縫い合わせるという製法。そのため、着丈110cmのコートにしては、1.2kgと軽量です。「軽い」ということは、着ていてラクなだけではなく、シルエットの美しさにもつながります。
このコートはドロップドショルダーで、胸囲120cmとオーバーサイズのガウンタイプ。それでも、膨らんで見えないのは、生地を重ねていないので、シルエットがもっさり重くならないから。適度な落ち感とドレープが出る為、さっと羽織っただけでも、どこか女性らしいシルエットになります。
シルエットが美しいもう一つの理由は、コートのパターン。よく見ると、ポケットの上下に縦に縫い目が走っているのがお分かりいただけるかと思いますが、このコートは身頃が「前」「横」「後ろ」の3枚仕立てになっています。
この「脇」に1枚生地を挟んでいるのがポイント。美しいAラインでありながら、横に広がらずに細見えする、というシルエットが実現しているのは、3枚パネルで身頃を構成したパターンのお陰なのです。
ポケットにも「5ミリ」の一工夫
シルエットの美しさに妥協しない
さらに、ポケットの付け方にも配慮があって、私はちょっと感動しました。裏表同じ位置にポケットがついている、それさえも完全なリバーシブルですごいなと思ったのですが、実はこのポケットの位置、裏表で5ミリずらして縫い付けられています。まったく同じ位置だと縫い目が重なってボコボコするからです。
こうした小さな積み重ねがあって、出来上がったリバーシブルコート。熟練の職人さんでも、1着仕上げるのに丸一日かかるそうです。
ちなみにこの工房は、主にヨーロッパの著名ブランドの仕事を受けていて、リバーシブルの服だけを作っているそうです。その環境下で熟練の方でも1日かかるということは、それだけこのコートにかかる工程の多さを表していますよね(なんせ冒頭のあの縫いのスピードですから)。
商品ページで「幻のコートになるかも」とご紹介しましたが、今、日本では縫製工場がどんどん廃業し、作りたくてもメイドインジャパンの服作りが難しい状況になっています。この状況は、実は中国でも同じ。大手ブランドは縫製の拠点をベトナムなど第3国に変えていますし、中国では一人っ子政策の影響もあって、若い世代で縫製の仕事を引き継ぐ人がかなり少ないのだそう。
手まつりでコートを仕立てることができる工房は、その腕を買われて存続していますが、いつまで続けられるか不透明というのが現実。すべて手縫いの「和裁」が日本で消えかけている状況に近いのかも、とデザイナーさんと話をしました。
そんなタイミングだからこそ、幸運にもこのコートをご紹介できて良かったと改めて思います。スタイルストアのお客さまには、職人の手仕事に対して、熱いリスペクトを表してくださる方々が多いから。
このコートに縁のあった皆さんは、きっと長く大切に愛用してくださることと思います。つかい手の声を頂いたら、現地の工房の皆さんにもその内容をお伝えしたいと思っています。その日が今から楽しみです。
大手小売業で服飾雑貨のバイイング、新規ブランド開発を行う。その後活動の場をインターネットに移し、2006年にスタイルストアへ参加。 得意ジャンルは服飾雑貨、最近は地方の名品発掘がおもしろくて仕方がない。モノの背景を知ってこそ見える、真のお買い得品をセレクトする、これが信念です。