すみだモダン×スタイルストア

温故知新の精神で伝統的な手作りガラスの文化を紡ぐ[すみだモダン×スタイルストア]

2021年07月07日更新

廣田硝子は1899年に創業、東京で最も歴史のある硝子メーカーの一つで、手になじむ「ぬくもり」があるガラス製品づくりを行っています。

ハンドメイドへのこだわり、商品の復刻にかける想いなどを代表の廣田達朗さんに伺いました。

日本人が使いやすいガラスを手作りで

ー廣田硝子の歴史について教えてください。

廣田さん:弊社は曾祖父が1899年に洋燈(石油ランプ)を販売する会社としてスタートしています。その後、大正時代に墨田区へ移ってきてからは、ガラス食器・ガラス容器工場を作りました。この一帯に駄菓子屋の問屋が多いこともあって、お菓子を入れる”地球瓶”と呼ばれるガラス容器の生産を始めることに。当時、ワインやビールなど西洋のアルコール飲料が流行し、グラスの需要が増え始めたため、地球瓶とあわせて食器類の生産・販売も行うようになりました。

ー当時のガラス製品は海外からの輸入がほとんどだったそうですが、ガラスの食器を作るようになったきっかけは何だったのでしょうか?

廣田さん:先々代(祖父)・先代(父)の時代はガラス食器というと西洋のイメージが強かったです。西洋のガラスは西洋の食文化や生活スタイルに寄り添ったデザインになりますが、先々代の時代から「もっと日本人にとって使いやすいデザインにフォーカスしたほうがいいのでは?」という想いがあり、日本の文化に沿ったガラス食器作りも同時に行いました。

戦後は機械での大量生産が主流でしたが、弊社ではガラス職人がすべて手作業で製造をしていました。機械で作れないものを作っていくほうが社会的意義があると考え、現在でも一貫して手作業でガラス作りを行っています。

ガラスは吹いて作るイメージを持つ方が多いと思いますが、押して作る、金型を回して作る、圧迫するなど用途によって製造方法も分かれています。

新しいことへの挑戦と、技術を途絶えさせたくないというプライド

ー墨田区が行っている「ものづくりコラボレーション」によって誕生した「WAYOU(ワヨウ)」の開発のきっかけを教えてください。

廣田さん:墨田区が台湾デザインセンターと取組をすることになり、台湾のデザイナーさんと一緒に新商品開発を始めました。ちょうど台湾と日本でかき氷が流行っていたこともあり、比較的文化そして生活に合う器を作ったら面白いんじゃないか、ということでWAYOUという商品が誕生しました。

WAYOUはかき氷だけでなく、サラダ、ヨーグルトなども盛りやすい大きさです。一番小さなサイズは盃に使われることも多く人気ですね。飲み口がラッパ型に開いているので口当たりも良いです。

ーWAYOUの乳白色の模様はどのように出しているのですか?

廣田さん:乳白色は、骨灰という特殊な原料が入ったガラスを使い色を出しています。火で炙った時に山の部分は色が抜け、谷のところに色が残る製法が大正時代にすごく流行ったんです。日本独特の成形で、外国にはない技術のようですね。

ただ、作り方が難しく原料自体が特殊ということもあって途絶えてしまいました。文献にも残っておらず、写真や現品しかない状況。先代が大正時代にガラス食器を作られていた全国の職人さん達を訪ね、聞き取り調査を行い、ようやく再現に至りました。製造過程で色を出すのは他社でもやっていない手法だと思います。

ー2020年には「元祖すり口醤油差し」がグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。1976年の発売当時から変わらないこちらの醤油差しは、「液だれがなく綺麗にさせる」「持ちやすく簡単に洗える」等の点が、高く評価されました。

廣田さん:1976年当時は”内ネジ”と言って栓の中に入れるタイプの蓋が主流。ネジの開け閉めの時にガラス自体が欠けてしまう可能性があったり、ネジがおかしな方向に入ってしまうことが課題でした。そこでヒントにしたのが理科化学研究に使われている薬瓶のガラス共栓です。この仕組みを参考に開発しました。現在、ガラスの醤油差しの擦り合わせによるガラス栓の仕組みは、他社がされているガラス醤油差しの多くにおいても弊社のデザインが使われています。

ーガラス製品は、容器への色移りや匂いの染み込みも無く衛生的に使えるのが嬉しいポイント。ふっくらした丸みのあるフォルムは持ちやすく、手作業による温もりも感じさせてくれます。

文化を残すために「現物」に意義がある

ー最後に今後の展望についてお聞かせください

廣田さん:このご時世、おおよそオートメーションで作ることもできますが、知られていない多くの部分は未だ人の手によって作られています。昔の技術や商品を見直し、改めて生産していた当時の商品を復刻することで気付くこともあります。またそれは写真ではなく、現物としてあることに意義があると思っています。大事に商品作りをして、次の世代にこの愛すべきガラス食器文化を残していきたいですね。

また、多くの人に日本人が手掛けてきたガラス食器文化を知ってもらえる機会を作っていくことも私の使命だと思っています。今後も墨田区の産業として残していけるよう頑張っていきたいですね。

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文・構成/やまちの

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スタイルストア 編集室

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