すみだモダン×スタイルストア

長年培った技術があるからこそ、実現できるフォルムがある[すみだモダン×スタイルストア]

2021年03月17日更新

笠原スプリング製作所は、墨田区で90年以上にわたり、プレス加工・溶接加工業を営む伝統ある企業です。板バネなどの機械部品を作ってきた企業が、なぜ一般消費者向けの実用的でデザインが良い商品を開発できたのか?代表の笠原克之さんに誕生秘話を伺いました。

苦境に立たされたときに墨田区の事業に参加

―現在に至るまでの笠原スプリング製作所の歴史について教えていただけますか?

笠原さん:1929年に私の曾祖父と祖父が「笠原スプリング製作所」を立ち上げました。その後1951年に合資会社笠原スプリング製作所として法人化しました。戦前までは自動小銃のバネや飛行機の部品を製造、戦後は自動車のライトのカバーや機械部品を作るようになりました。私も高校卒業後、先代から溶接の技術を覚えるよう言われ、町工場で修行を積みました。その頃は、レントゲン室のドアやスタジオの防音ドアなどを作っていましたね。

創業当時の貴重な写真

笠原さん:全盛期は30人ほどの従業員がいたのですが、1990年代のバブル崩壊と共に顧客が海外へ拠点を移しはじめました。そのため止むを得ず、社員をリストラして家族経営に切り替えたのです。

2008年、共に働いていた父に病気が発覚し、入退院を繰り返すように。そのため夜遅くまで一人で作業を行っていたという笠原さん。さらに同年にはリーマンショックで主要顧客の倒産・廃業が続きました。この先どうしたものかと悩む時に、墨田区の若手後継者・経営者育成事業であるビジネススクール『フロンティアすみだ塾』に参加。さらに同区が実施する『ものづくりコラボレーション事業*』に出会います。

*高い技術力を持つ墨田区の事業者と世界で活躍するクリエイターとのコラボレーション企画。

試行錯誤を繰り返した初めての商品開発

―はじめに、「ものづくりコラボレーション事業」に参加しようと思ったきっかけを教えてください。

笠原さん:リーマンショックの影響で仕事がどんどん減り、お金も無くなり、とにかく仕事になるようなことをしないと、という気持ちでした。

笠原さん:時間はたくさんあったので『フロンティアすみだ塾』に通い始め、『ものづくりコラボレーション事業』に応募しました。これから先を見据えて何かしなければ、ただそれだけの気持ちでした。

―初めての商品である「てのひらトング」の開発で苦労した点はありますか?

笠原さん:デザイナーの廣田尚子さんからデザインをいただいた時、「技術的に不可能では?」と思ってしまいました。トングの丸みを出すのに、通常の方法ではしわが寄ってしまうんです。丸みを出すプレスがうまくいっても今度はカットができない。外周を切るときに金型が欠けてしまうんですね。

度重なる試行錯誤のうえ商品化できた「てのひらトング」

試行錯誤を続けていましたが、新しい技術を学ぶために廣田さんの紹介で燕三条を訪問したり、知り合いの紹介で山梨県にある有名な金型作りの会社へ勉強しに行ったりもしました。しかしそれらの方法でも上手くいかず、翌年9月にプロデューサーの紫牟田伸子さんから、「このまま続けても笠原さんが大変になるので期限を決めましょう」、と言われてしまいました。毎週テストを繰り返し改良を重ね、完成まで1年半かけて何とか期限に間に合わせることができました。

数々の賞を受賞し、生産が追い付かないことも

―「てのひらトング」は、野菜の形を崩さずにつかむことができ、 コーンや豆など小さな具材も簡単にすくう機能も備えています。お子様でもケガをせず安心して使えるように、2万回以上のテストを実施したそうです。

―2011年に「てのひらトング」を発売し、同年に墨田区の優れた商品の証である「すみだモダン」に認証されます。その後、低価格の「てのひらサラダトング」を開発。研磨にかかるコスト削減とパッケージの簡素化を実現し、「TASKものづくり大賞」で共同開発部門大賞を受賞しました。

その後の反響はいかがでしたか?

笠原さん:関西地方のテレビで大々的に取りあげられところ、翌日ファックスや電話の問い合わせが殺到して大変なことになったんです。制作から検品、梱包まで全て一人で対応していたため、2〜3ヶ月生産が追いつかない状況が続きました。

その結果、2014年にフランスの有名なセレクトショップ「colette」にて、「てのひらトング」と「てのひらサラダトング」を紹介していただきました。海外の人にも認めてもらえた喜びがありました。2015年には、クールジャパン政策のもと 日本が誇るべきすぐれた地方産品を発掘し海外に広く伝えていくプロジェクトTHE WONDER500™にてのひらトングが認定され、2020年には、「てのひらトング」が、数あるすみだモダン認証商品の中から「ベストオブすみだモダン*」の1商品として認証されました。

*2010年~2018年までに認証を受けた計137の「すみだモダン」の中から、特に「すみだらしさ」を体現する商品として選ばれた13点の商品群。

フロンティアすみだ塾では、さまざまなことを教えてもらったという笠原さん。ここでのご縁があったからこそ、「てのひらトング」の製品化ができたと語っていました。今後はこれまでの技術や経験を生かして、他社の製品作りの協力をしてみたいとお考えのようです。

笠原さんの確かな技術と、妥協しない真摯な姿勢。これから先の、笠原スプリング製作所のものづくりから目が離せません。

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文・構成/やまちの

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