つくり手自身のための特注品
イチイの木を彫って作った、綺麗に仕上げすぎない仏像「木端仏」[連載:つくり手の愛用品 vol.003]
スタイルストアのつくり手が自分や家族のために作った、未販売のプライベートな愛用品。つくり手にとって最大のお客さまとも言える、自分のためのフルオーダー品だからこそ、ものづくりのこだわりがぎゅっと詰まっています。今回は「いちょうの木のまな板」などの代表作で知られる、woodpeckerの福井賢治さんによる木端仏(こっぱぶつ)について、制作の経緯なども含め話を伺いました。
福井賢治さんのプロフィール
祖父の代から続く木地職人(みこしや仏壇の製造)の家系で育ち、家具製作・神仏具製造の職を経て、2007年「木と一緒にくらす」をコンセプトにwoodpeckerを設立。木製品の製作と、料理家、ショップとのコラボレーションなどを通して木工の可能性を広げている。
代表作は「いちょうの木のまな板」。柔らかく弾力があるため、包丁の刃を痛めにくいと好評。また2019年11月には、本格的でありながら現在の住環境に寄り添ったシンプルな神棚「GIRIDO」を発表した。
今回の紹介してもらう「愛用品」について教えてください
今回福井さんにご紹介いただくのは、木に目、鼻、口などをつけた「円空仏:木端仏」。まずはどのようなものかを伺いました。
「木の破片を削って作った、木端仏(こっぱぶつ)といわれる小さな仏様です。イチイ(一位)の木を削って作りました。」
「江戸時代の僧、円空が木彫りの仏像を残したことは有名ですが、中でも木の破片を彫って作った仏像『木端仏』に興味を惹かれて作ったんです。」
どういうきっかけでこの愛用品を作ったのですか?
こちらの写真は、彫刻家の先生が作った作品と、福井さんご自身が作った作品を並べて映したもの。左が先生の、右が福井さんの木端仏です。
彫る前の素材は、下の画像のような木の破片です。ここから自分の手で彫り上げる木端仏を、実際に自分の手で作ってみようと考えたきっかけについて、話していただきました。
「岐阜県内には円空仏が多いので、以前からいろいろと見てきました。ある日ふと自分でも彫ってみたいと思って、彫刻家の先生のところへ通いました。完全に趣味です。」
「神仏具製造をしていた私の父親も、木で小さな動物や手のひらサイズのお地蔵さんなど彫っては孫に配ったりしていました。その影響もあるかもしれませんね。実用性はないですが、できあがったものが身近にあると単純に嬉しいです。」
どこにこだわったか、苦労したことなどのエピソードを教えてください
完成までにこだわったところ、苦労したところについて尋ねると、「なかなか思い通りにはできない」「まだまだ修行中」との答えが返ってきました。
「木でものを作ることは日常ですが、木を彫ることはまた違います。イメージはできても、その通りにはならない。」
「綺麗に仕上げ過ぎず、良い加減で彫ることをやめてあげるのも『円空仏』の魅力だと思います。製作を通じて、生活に必要なものは機能性や実用性だけではかれるものではない、ということがわかりました。」
最後に、福井さんがものづくりで大事にしていることを教えてください
まな板やトレーを始め、さまざまな木製のアイテムを作り上げている福井さん。最後に、ものづくりにおいて大切にしていることを話していただきました。
「木の特性をいかすことを大切にしています。」
「木にはたくさんの種類があって、それぞれ特徴が違います。柔らかい硬い、軽い重いなど、素材によって本当にさまざまです。その中から、用途によって適した木材をしっかりと選ぶことを第一の基本にしています。」
「そして、木の気持ちよさを存分に味わっていただけるよう丁寧に仕上げる。それが大事にしていることです。」
インタビューを終えて:ちょうどいいところで彫るのを止めている。それが魅力に繋がる「木端仏」
福井さんが「完全に趣味」で彫り始めた木端仏は、美しく仕上げすぎず、程よいところで彫りをストップさせているのも魅力という、独特の存在感を放つ仏像です。
福井さんが仰るように、決まった用途のために作られた実用的なものではありませんが、それだけでは語れない何かを感じます。ものづくりそのものにおいて大事にしている、「木の特性をいかす」ことがそのまま反映された作品でした。
今回のつくり手の商品一覧
今回ご紹介したものは、つくり手さんご自身用のため非売品となっております。現在お取扱いしている商品は下記のリンクをご覧ください。代表作である「いちょうの木のまな板」も販売しています。
文・構成/上野智美
スタイルストアのお客さまに、日々の暮らしをアップデートするコツや、商品の選び方などのノウハウをご紹介するコラムをお届けしています。