バイヤーからのお便り
銘木のお椀が生まれる、山と田園に囲まれた工房を訪ねて(前編)
寒さが厳しい日が続いていますね。
この時期、熱々のお味噌汁を飲むと
身体のすみずみまであたたかさが
染み渡って、お正月後の疲れた胃にも
何となくやさしい気がしています。
そして今回ご紹介するのは、
銘木(めいぼく)のお椀のつくり手
薗部産業さんの工房を訪ねた時のこと。
「いつもと同じお味噌汁がなぜか
美味しく感じる」という声が届いている
こちらのお椀をはじめ、薗部さんの
ものづくりへの思いや、どんな風に
作られているのか、前後編でお伝えします。
山に囲まれた工房を訪ねて
都心から電車にゆられること約2時間。
銘木(めいぼく)のお椀のつくり手
薗部産業さんの工房は、山に囲まれた
神奈川県小田原市ののどかな田園の
そばにあります。
工房前の田んぼには、ちょうど
乾燥中の稲がずらりと気持ちよさそうに
並んでいました。
豊かな自然に囲まれた小田原は、
江戸時代に宿場町だったために
木工業が盛んで、小田原漆器や
箱根細工など木工の手仕事が
産業として成り立ってきたという
土地の背景があります。
こちらは社長の薗部利弘(そのべとしひろ)さん。
もともと薗部さんのお祖父さまが
長野・山梨で林業に携わっておられ、
小田原に移住して木工の製材をはじめたのが
そもそもの事業のはじまりだったそうです。
そして昭和24年、先代のお父さまが
原木の製材から加工まで一貫してできる
薗部木工所を創業。
薗部さんがいつも大切にされていている
「木の命を大事に、無駄なく使い切る」
という思いの基礎は、原木を切るところ
から携わられていた家系がルーツなの
だなと伝わってきました。
高度成長期は欧米向けに木製の
サラダボールなどを多数輸出して
いましたが、ドルショックを機に、
輸出ではなく国内向け販売に軸を
置くようになったそう。
それからは、だんだんと引き出物など
婚礼ギフトとして需要が高かったお盆や
漆器などが生産の中心になりました。
そしてその後、「お盆だけではなく、
暮らしの中で心地よく使えるような
お椀を作りたい」という思いから
開発されたのがこちらの銘木椀でした。
「お椀作りは初めてでしたが、
木工に携わる者として、
天然木ならではの木目の個性と美しさを
感じられることや、木を無駄なく使う
ことを大事にしたかった」
という薗部さん。
その思いを銘木椀づくりにも
反映されたと言います。
一般的に他の産地では、上の画像の
奥のカップのように、丸太に対して
垂直に木取りをします。
こうすると、木目はおとなしい表情に。
丸太に対して器として取れる数は
限られます。
薗部さんの場合は、お盆作りのノウハウを
活かし、他のお椀の産地ではあまり
行われていない、丸太に対して
縦に木取りする方法で生産。
木目の個性をより一層楽しめるように、
そして木を無駄なく使い、手の届く
価格のお椀を作られました。
この木取りの仕方は、木が歪みやすく
加工がとても難しいそうですが、
昔からこの方法でお盆を作ってきた
加工技術や知見があるからこその
作り方です。
また、このコロンとした形は、
北欧食器を愛する、薗部さんの奥さま
紹子(あきこ)さんの、
「北欧食器が並ぶ食卓にも合う
愛らしい木のスープカップがあったら」
という思いもあったのだそうです。
後編では当店限定の銘木のお椀を
職人の親方が挽いて下さっている様子など、
工房の中をご案内しますね。
いつもの暮らしがちょっと心地良くなるようなものやこと、つくり手の思いやものづくりのストーリー、その地域ならではの話をお伝えしたいなと日々考えています。