バイヤーからのお便り
「ホッとする履き心地を」ABE HOME SHOESのつかい手に寄り添う開発秘話

帆布のバブーシュやボアルームシューズなど、高いデザイン性や機能性・耐久性から、つかい手の評価が高いブランド「ABE HOME SHOES」。履き心地を追求したルームシューズは、厳選した素材と職人による手仕事によるものでした。
履物の産地、山形県河北町で伝統を受け継ぎながらも、常に進化し続けるものづくりへのこだわりを代表の阿部さんに伺いました。
デザインと「ホッとする」思いを繋ぐ

阿部さんによれば、「ABE HOME SHOES」ブランドを立ち上げたのは2008年頃のこと。それ以前からデザイン性の高い商品作りはされていたものの、「本当に多くの方に手に取っていただけるブランドになっていないのではないか」という思いがありました。そこで、地元のデザイン会社と協業し、つくり手の思いをお客さまに届けるためのファクトリーブランドとして立ち上げることを決意されたそうです。

ブランド名の「HOME」には、社員へのアンケートなどを通じて導き出された、「家に帰ったらホッとする、くつろげるようなスリッパ」を作りたいという願いが込められています。現在も、商品の色選定や販売用のタグデザインなどは引き続きデザイン会社と連携し、ブランドの世界観を統一しています。
草履からスリッパの日本一産地へ

「ABE HOME SHOES」を展開する会社、阿部産業は山形県河北町で大正8年創業という長い歴史を持ちます。この地域は元々稲わらで草履を編む産地として明治時代から栄えていました。
明治期には、地元出身の発明家が考案した圧搾機械により商品化が進み、一時は日本一の草履の産地になりました。そして、時代の変化、特に高度成長期に伴い、草履の需要が減少し、代わりにスリッパの需要が増加。この地域の履き物メーカーは、草履からスリッパへと業態を転換していきました。阿部産業もこの流れに乗り、昭和51年に社名変更を経て、地域全体が「日本一のスリッパの産地」としての地位を継承してきた歴史があります。

しかし、時代の流れとともに生産がコストの低い外国に移っていき、地場産業は衰退。阿部さんは、この地域の産業をなくしたくないという思いから、オリジナルのスリッパづくりに注力。デザインを取り入れたことで、グッドデザイン賞受賞などへと繋がっていきました。
こだわりの8号帆布、そしてバブーシュへの進化

帆布のバブーシュや帆布のボアルームシューズに使われている、ABE HOME SHOESの代名詞ともいえる8号帆布。阿部さんがバブーシュを作る際、この素材を選んだ決め手は、その「丈夫さ」と「豊富なカラーバリエーション」。家族みんなで使えるような色展開を目指す上で、この素材の持つポテンシャルが大きかったのです。さらに、本来のモロッコの本革製バブーシュが抱える「洗えない」「ニオイが気になる」といった点を解消するため、「洗える」という機能性も帆布であれば問題ありません。
もともとスリッパのようなソフトな形状から、モロッコのバブーシュのような形を追求する中で、より軽快で若い世代にも響くものを目指し、薄くても履いているうちに足に馴染んでいく帆布が採用された側面もありました。

また、サイズ展開が5サイズ(キッズ含む)と非常に豊富である点も、ファクトリーブランドとしての強みを活かし、つかい手の声を直接聞きながら実現に至っています。

実際に2025年にオープンしたファクトリーショップでは、お客さまが試着してフィット感を確認できる場となっており、寄せられた声を商品開発に活かしているそうです。
履きやすいのに脱げにくい帆布のバブーシュ

ABE HOME SHOESの帆布のバブーシュの最大の魅力の一つは、その際立った「履きやすさ」と「脱げにくさ」。阿部さんによれば、これはスリッパ専門メーカーとしての知見と、細部にわたるこだわりによって実現されています。

帆布バブーシュの履きやすさについては、その形状に秘密があります。通常のスリッパは甲の部分で終わるのに対し、バブーシュは甲の部分がかかとのところまで深く設計。これにより、足全体を抑え込み、歩行時にパタパタと脱げにくい構造です。
さらに横の部分も足にフィットするよう包み込む形状で、奥までしっかりと足を入れて履くことで、ジャストサイズでなくても脱げにくく、安心感があります。
さらに、インソールにも深いこだわりがありました。EVA(合成樹脂)と低反発ウレタンを含む三層構造。これにより、安価なスリッパに見られるような薄っぺら感がありません。ソフトでフィット感のある履き心地で疲れにくくなっています。

ソール素材にはPVC(合成樹脂)を使用し、バフをかけて細かく起毛させることで独自の滑りにくさと静音性を実現。このバフがけのPVCは生地メーカーへの特注であり、他社ブランドにはないABE HOME SHOESのこだわりです。
ボアルームシューズの誕生と脱ぎ履きのしやすさ

かかと部分が大きく開いているボアルームシューズは、スタイルストアからの「脱ぎ履きしやすいあたたかいルームシューズを」というリクエストから誕生。この商品の開発にあたり、冬の室内履きに求められる「快適さ」を徹底的に追求しました。

脱げにくさとフィット感には、スリッパ専業メーカーとしての経験が活かされています。甲の部分は、一枚布ではなく真ん中で縫い合わせることで、まっすぐではなく「足の形に沿って緩やかに高くする」という立体的な形状。この工夫により、足に心地よくフィットし、脱げにくい構造になっています。

開発当初はかかとはもっと低いデザインでしたが、スタイルストアのつかい手から「かかとが高い方が歩行時により脱げにくくて良い」という声があり、それをすぐに反映。かかとを少し高く改良したことで、より足が収まりやすく、履きやすさが向上しました。

あたたかさの肝となるボアにはマイクロ糸を使用した滑らかな手触りと上品な光沢が特徴のボアを採用。「肌触りがすごく柔らかい」「あたたかい」「比較的ホコリがつきにくい」点が決め手になりました。また、履いていても毛玉になりにくい耐久性の良さも特徴です。

ボアルームシューズではふわふわ感を出すために高反発ウレタンを採用しています。厚みがあるため、フローリングからの冷気をシャットアウトしてあたたかさをキープ。商品ごとに素材を変えることで、季節や用途に合った履き心地を実現しています。ソールにはバブーシュと同しPVCを使用し、滑りにくくしているため階段の上り下りも安心です。
長く愛用いただくためのメンテナンスの秘訣

お気に入りの一足を長く履くためのメンテナンス方法も教えていただきました。
今回ご紹介しているバブーシュやボアルームシューズは特に左右のないタイプです。時々左右交互に履くことで、偏りがちな負荷が分散され、へたりを遅らせらことができ、寿命が延びます。
また、洗濯機で洗う場合は、ネットに入れるのが推奨されますが、最も重要なのは「脱水」。脱水でしっかり水分を切り、すぐに取り出して形を整えて陰干しすることが、水ジミを防ぎ、生地を傷めないための「肝」だと強調されていました。
大きく破損した場合は新調を勧めていますが、小さなほつれの場合は、セメダインやボンドなどで早めに応急処置をすることで、ほつれの広がりを防ぎ、長く使える可能性が高まります。
是非実践してみてください。
地元山形の資源を活かしたアップサイクル
今後の展開として特に印象的だったのが、サクランボの枝を活用した新素材によるアイテムです。山形県の名産であるサクランボの剪定枝は、本来焼却処分される廃棄物。これをアップサイクルし、チップ化、和紙と組み合わせた糸で布を織るという、環境に配慮した素材を使ったルームシューズを企画中とのことです。抗菌・消臭作用にも優れる、 この布を使った新商品は、当店でも来年春以降の発売を予定していますのでご期待ください。

地場産業の継承という使命を背負いながらも、「常に進化していかないと残っていけない」という姿勢で、お客さまの声に真摯に向き合い、素材と製法に徹底的にこだわる。その情熱と探求心が、「ホッとする履き心地」として私たちの手に届いているのだと、今回のインタビューを通じて感じました。

今回ご紹介した帆布のバブーシュやボアルームシューズはつかい手の方々からも「洗えて、色味がハッキリしていて、良い品だと思います。お値段は高いですが、他社のものとは違います。」「履き心地が良くて、洗っても型崩れなく、結果、擦り切れるまで使いました。再度、購入です。」「毎日履いても頻繁に洗っても壊れにくい」「フィット感があり、履き心地よいです。色合いもgood!」「スリッパほどぱたぱたしないところが気に入っています。」等々、よい声がたくさん届いています。

「良いものを長く使いたい」「普段履いているスリッパにストレスを感じている」「家族のルームシューズを揃えたい」「冬はつま先や足裏が冷える」と思っている方には、帆布のバブーシュやボアルームシューズはとてもおすすめです。是非お試しくださいませ。

現代は世のなかにモノが溢れかえり、使っては捨てるを繰り返す大量消費社会です。
そんな時代だからこそ流行に左右されず長く使うことができ、そして愛着が増していくモノを厳選してご紹介していきたいと考えています。