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革加工のプロが作る、最新技術を取り入れたメイドインすみだの革製品
シンプルで丈夫な革袋と革トートバッグを開発したのは、墨田革漉工業株式会社代表取締役会長の佐藤さん。イタリアへ積極的に足を運び、持ち帰った最新の技術と情報を元に商品開発に取り組まれています。
今回は受注加工を中心に行ってきた墨田革漉工業が自社製品の開発にチャレンジされた経緯と完成までのお話をお聞きしました。
革漉きの受注加工から、製品開発まで
ー墨田革漉工業について教えてください。
昭和27年にこの墨田区で開業したのが始まりで、現在は従業員23人と共に革の加工事業を行っています。
私たちはもともと革漉きから始まりました。革は厚みがバラバラなので、バッグや靴にする前に漉いて厚みを整える必要があります。そこで革問屋からの依頼を受けて、革の厚みを0.1mmレベルで整えていました。その後、少しずつ幅を広げて、現在は革の面積を測る皮革面積軽量や革に穴を開けて柄をつけるパンチング、革にしわ加工を施すプリーツ加工、革にデジタル画像をプリントするインクジェットプリントなども行っています。革は種類を問わず加工対応が可能なのが特徴です。
ーこれまで受注加工が中心だったなか、製品開発に取り組み始めた理由を教えてください。
革の加工だけを担当していると、その先どのように革が使われ、製品となっているかまでを知ることができず、どうしても仕事に対して受け身になってしまうことを課題に感じていました。
そこで墨田区の「ものづくりコラボレーション事業」に応募し、プランナーの松田朋春さんが代表を務める「典型プロジェクト(※)」の一環として、デザイナーの真喜志奈美さんと一緒に革袋・革トートを開発しました。
※典型プロジェクト・・・誰にでもそれとわかる原型的なデザイン=「典型的なもの」を作る・見いだすプロジェクト。日本の工場に根づいた「精度の文化(正確・誠実・清潔)」を通して、新しい典型を開発している。
製品開発に取り組んで初めて気づいた豚革の特徴
ー初めての製品開発に取り組むなかで新たな発見や気づきなどはありましたか。
これまで中間加工のみを行ってきたので、商品にする際の注意点や工夫点を知らなかったことは大きな学びでした。例えば、革は裁断すると伸びたり縮んだりします。そのことを考慮せずに試作品を寸法通りに作ったところ、サイズが異なったバッグが完成してしまいました。
革袋はタブレットなどの決まった物が入るようサイズを決めているので、少しぐらい小さくても…は許されません。革の特徴をしっかりと理解した上で作るべく、革と向き合って作りました。
ーその他、製品開発において苦労した点などがあれば教えてください。
高い縫製の技術を持っている職人さんを探すのには苦労しました。布の場合、縫った箇所は目立たず、解いてやり直すことも難しくはありませんが、革は縫った箇所に穴が目立って残ってしまうため、やり直しがききません。
また、とてもシンプルで直線的なデザインだからこそ、蛇行のないステッチが重要という特徴もあります。そのため縫製においては高い技術を持った職人を見つけなければいけなかったのです。
ー開発にはかなりの時間をかけられたのでしょうか。
そうですね。革のトートバッグには裏地に布を貼っているものが多いかと思いますが、私たちのトートバッグに裏地はありません。そのため色移りがしないかなどの試験や検証を行ったり、中につけたタグなどもデザインをイチからデザイナーさんと考えたりしました。革だからこその特徴を生かしたバッグ、そして長く使っていただけるバッグにこだわった結果、1年以上かかりました。
イタリアの最新技術を墨田で
ー長い期間をかけて製品開発されるところからも佐藤さんのものづくりへのこだわりが見受けられます。ものづくりにおいて大事にされていることは何ですか。
最新の技術を常に取り入れるということを大事にしています。革に関してはイタリアが本場です。そのため、毎年2回イタリアで開催される革の展示会へ参加し、最新の技術を日本に持って帰ってきています。イタリアで得た最新の情報や技術を活用して墨田の豚革を加工し、メイドインすみだの物を作り出しているのが墨田革漉工業なのです。
ー革はイタリアが本場なのですね。
実は墨田革漉工業で使用している機械の多くも、イタリアやフランスなど海外から輸入しています。海外の機械は電圧やモーターの違いから調整が必要で大変です。それでも海外の機械の方が最新の技術が取り入れられているので、英語のマニュアルを頑張って読み、調整を行い、機械を使いこなせるようにしています。
ー今後、新たに取り組みたいことや挑戦したいことなどはありますか。
これからは豚革や革加工、そして墨田革漉工業についてもっと多くの人に知ってもらうための活動に注力したいです。革は身近な存在だと思いますが、どのように加工されて商品になっているかを知っている方はまだまだ少ないと思います。
工場見学も随時受け付けているので、工場の雰囲気や日本ではほとんど見られない珍しい機械、そして高い技術を持った職人の腕をぜひ多くの方々に見にきてほしいですね。
文・構成/松本佳恋
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