インタビュー&ゲストコラム
【つかい手インタビュー】デザインの力で使い心地を追求する、NIZYU KANOのものづくり

ライフスタイルブランド「NIZYU KANO」は2016年に三輪さん夫婦によって立ち上げられました。国内産の優れた素材にこだわり、シンプルさと機能性の両立を追求しています。
元バッグメーカーでのデザイン経験を活かし、産地の特徴を熟知した上で、使い手がストレスを感じない「軽さ」や「整理しやすさ」をデザインで解決。流行に左右されず、使い込むほどに愛着が湧く。そんな、使う人の願いを「叶える」道具としてのものづくりの背景について伺いました。
日本の職人技と、お守りに込められた願い

夫婦で営む「NIZYU KANO」は、素材と使い心地に妥協しないライフスタイルブランドです。三輪さん夫婦が以前勤めていたバッグメーカーでは海外生産が主流でしたが、お二人は国内各地にある特徴的な素材や、産地の職人たちが作る生地の素晴らしさに触れる機会が多くありました。

「こうした日本の優れた素材を活かしたものづくりを、自分たちの手で届けたい」。その想いが形になり、2016年にブランドをスタート。ブランド名の「NIZYU KANO」は、お守りに使われる「二重叶(にじゅうかのう)結び」に由来しています。
結び目の表が「口」、裏が「十」の形に見え、合わせると「叶」という漢字になる。この縁起の良い結びに、自分たちの作ったものが「誰かへの大切な贈り物になれば」という温かなメッセージが込められています。
デザインと職人技、二人のバックグラウンドが生きるブランド

「NIZYU KANO」のものづくりを支えるのは、三輪さん夫婦の確かな経歴です。
夫の三輪さんは、大学で絵画を専攻するなかでプロダクトデザインや工学の世界に惹かれ、バッグの専門学校へ進み直したといいます。その後、バッグメーカーで10年間、デザインと機能が融合する製品開発に携わってきました。

一方、奥様もデザインを学びながら、自らの手で形にする「職人」の技術を習得。お二人は同じバッグメーカーで切磋琢磨した後に、独立を果たしました。
「デザイン(設計)」の視点と「職人(作り手)」の視点。この両輪が揃っているからこそ、NIZYU KANOのバッグは単なるファッションアイテムではなく、「道具」としての完成度が高いのだと思います。
「シンプル」と「使いやすさ」の絶妙なバランス

三輪さんが最も大切にしているのは、素材の良さを引き出しつつ、機能をデザインで解決することです。一般的に、機能を増やせば重くなり、見た目を重視すれば使い勝手が犠牲になりがちです。しかしNIZYU KANOの製品は、驚くほどシンプルで軽やかです。

「デザインの力で、2つの機能を1つにまとめたり、資材を減らしたりすることを心がけています。迷ったら、よりシンプルで大げさ感のない方を選ぶ。それが故障の少なさや、世代・性別を問わない合わせやすさにつながるんです」と三輪さんは言います。
夫婦二人だからこそ気づける「誰にとっても使いやすい形」

NIZYU KANOの製品は、性別を問わず愛されるユニセックスなデザインが特徴です。これには、夫婦でブランドを運営しているからこその強みがあるといいます。
「開発の段階で、男性の意見と女性の意見が自然とぶつかり合い、融合していくんです。双方が納得するまで『使いやすさ』を出し合うことで、結果として誰にでも馴染む、偏りのない製品に仕上がります」と三輪さんは明かしてくれました。
家族やパートナーとシェアして使える、あるいはギフトとして贈りたくなる。そんな誰もが使えるデザインは、お二人の対話から生まれていました。
理想の生地を求めて。2つの代表的リュックのこだわり
ライトナイロンリュック M・L

「見た目はしっかり、持つと軽い」というギャップを目指したモデルです。使用しているのは、光沢を抑えたコットン調のナイロン生地。 「ツヤが強すぎると普段の服に馴染みにくい」という視点から選ばれたこの生地は、ナチュラルな装いにも溶け込みます。

一方で、ハンドルには東京・墨田区の豚革、ファスナーにはあえて重厚感のある金属製を採用し、大人にふさわしい高級感をプラスしています。
FUKUI SIWA ナイロンリュック M・L

こちらは「生地そのもの」から着想を得たシリーズです。ナイロン糸を膨張させる「塩縮(えんしゅく)加工」を施した、NIZYU KANOオリジナルの生地を使用しています。 和紙のような独特の風合いと高い強度が特徴で、この素材感を主役にするため、表面のステッチを極限まで減らしました。

四隅に「タック」を寄せることで生まれる立体的なシルエットが、豊かな表情を生み出しています。
使う人の動きを捉えた、画期的な「4つの引き手」

ライトナイロンリュック M・L、FUKUI SIWA ナイロンリュック M・Lともに、機能面での大きな特徴は、メインファスナーにある4つの引き手です。

通常、リュックは一度下ろさないと荷物が取り出しにくいものですが、この仕組みなら肩にかけたまま、サイドからスッと中身にアクセスできます。
「リュックを下ろす手間を省き、移動中もスマートに。使い勝手の良さを実感してほしい」という三輪さんのこだわりから生まれた、特注の仕様です。
共に育ち、長く愛せる「道具」として

NIZYU KANOの製品は、福井や石川といった北陸地方の化学繊維、バッグ製造の盛んな豊岡(兵庫)や奈良、大阪などの熟練工場の手を経て完成します。

三輪さんは、工場の設備や得意分野を細かく把握した上で、製品ごとに最適な作り手を選定しています。
「買った時が一番ではなく、使い込んでくたっとした時に、さらに良い雰囲気が出る素材を選んでいます」
そう語る通り、お客様の中には、長年愛用して味わい深くなったバッグを持ってイベントを訪れる方も多いそうです。その数年使い込まれて「良い雰囲気」になったバッグを見ることが、何よりの喜びだといいます。

現在は山梨県にも拠点を構え、DIYで建物を修繕しながら、新たな産地の素材や技術との出会いを楽しんでいる三輪さん夫婦。バッグという枠を超え、人々の生活をより良くする「ライフスタイルブランド」として、今後はシューズなども検討されているようです。
社内でも愛用者が多いNIZYU KANOですが、皆が「軽い」「使いやすい」と揃って口にしています。また、ナイロンなのにコットンのような風合いなため、洋服を選ばず、使っていくうちに愛着が増していくのも魅力だと思います。ぜひNIZYU KANOのものづくりに触れてみてください。

現代は世のなかにモノが溢れかえり、使っては捨てるを繰り返す大量消費社会です。
そんな時代だからこそ流行に左右されず長く使うことができ、そして愛着が増していくモノを厳選してご紹介していきたいと考えています。