つくり手自身のための特注品
木の感触を幼い頃から。木工屋に生まれた息子さん用の「ナラパン皿」[連載:つくり手の愛用品 vol.001]
スタイルストアのつくり手が自分や家族のために作った、プライベートな愛用品。つくり手にとって最大のお客さまとも言える、自分のためのフルオーダー品だからこそ、ものづくりのこだわりがぎゅっと詰まっています。今回ご紹介するのは、薗部産業の薗部弘太郎さんがお子さんのために作った「ナラパン皿」です。薗部さんからお伺いしたお話を交えてお届けします。
薗部弘太郎さんのプロフィール
1989年小田原生まれ。大学卒業後商社勤務を経て、2017年薗部産業/クラフト木の実に入社。初年度は現場修行、2018年よりデザインと営業を担当。2019年には「仁取皿(ニトリ皿)」にて、デザイナーとしてグッドデザイン賞を受賞。大切にしていることは、「おいしい食卓を もっとおいしく愉しく」。「つくり手」目線ではなく、できるだけ「つかい手」目線でものづくりと向き合っている。
今回の紹介してもらう「愛用品」について教えてください
今回薗部さんにご紹介いただくのは、山形県米沢産の楢(ナラ)で作った「ナラパン皿」です。これは息子さんに食事をあげるために、薗部さん自らが手がけたお皿。一見シンプルに見えますが、スタイルストアでも販売中のうつわを、薗部さんの暮らしに合わせてさらに改良したものです。まずはこのナラパン皿がどんなものかを教えていただきました。
「スタイルストアで販売中の『丸パン皿 桜(φ24cm)』は、薄く軽く取り回しが良いように作り上げ、洗いやすさまで考え抜いた、一つの完成されたプロダクトです。これに自分自身の生活にフィットする、引き算でのつかいやすさと、自分の 『好き』をプラスしたもの。それが、私が一番好きなナラの木で作った、すっきり小さいナラパン皿(φ20cm)です。」
どういうきっかけでこの愛用品を作ったのですか?
このお皿が生まれたいきさつには、薗部さんご自身の過去、また息子さんの未来についての考えが関わっています。それぞれについて詳しく伺いました。
「私自身、この世界へとび込んでやっと4年です。4年間、この仕事をする前から出会ってきた方々、たくさんの食卓を想いうかべながら、どちらかというと『たくさんの方につかっていただけるモノづくり』を大切にしてきました。」
「ただふと思い返すと、『たくさん』を想いうかべて作ったモノは多いけれど、『一つ』を想いうかべてつくったモノはありません。この4年間で学んだモノとコトをつかって、はじめて自分の生活という一つを見つめて、モノづくりに挑戦してみようと思いました。」
「そして何を作ろうかと考えた時、 1歳になる息子のための木のうつわを思いつきました。私自身は、はじめてつかった『木のうつわ 木の道具』を思い返そうとしても、思い出せない。ただ不思議とこの仕事をはじめて、木という素材は私にフィットしてくれました。それは木工屋の子として生まれて、自分で気づく前から木のうつわや木の道具に触れてきたからなのでは?と思います。」
「息子が将来、どんな人になるのか、どんなコトをしたいかは彼の自由です。ただ、もし木工屋になりたいと思ったとき、木が不思議と彼にフィットしてくれるように、よい木のうつわと道具に触れさせてあげたいと思ったのです」
「こんな二つの想いからできたのが、このナラパン皿です。今は子にゴハンを『あげる』私の木のうつわですが、きっといつか、子がゴハンを『たべる』彼のうつわになります。今の私、未来の彼。それぞれの時の一人を見つめたモノです」
どこにこだわったかや苦労したことなどのエピソードを教えてください
まず最初に伺ったこだわりは、素材の選定から加工まで、全体を通しての考えです。
「今回のうつわ作りに使用したナラは、私自身が山形県米沢へ直接伺い、見つけてきた材です。米沢では森を見学し、土場と呼ばれる木の貯蔵所で数本を選び、神奈川県小田原市へ送り、自ら加工しました。」
「自分のうつわだからこそ、木の一生を自分の目で見て、自分の手で加工し、自分の食卓に届ける。すべてに携われることが木工屋の特権だからこそ、すべてにおいて『自分』にこだわりました。」
お皿に使用したナラ材は、実はかなり特徴がある材だそう。詳しく聞かせていただきました。
「ナラ材は、木工屋にはあまり好まれません。乾燥中に割れやすく、変形しやすく、なにより水が抜けず、乾燥がとてもとても難しい。加工する際も硬く頼もしすぎる、とても扱いづらい素材です。」
「海外から入ってくるナラ、つまりオークは、日本に入ってきた段階ですでに乾燥してあるので、国内のナラよりずっと加工しやすい硬さです。例えるなら、ナラは『じゃがいもを買ってきて、ゆでてつぶして、ひき肉と玉ねぎを混ぜ合わせて、揚げて作るコロッケ』。オークは『すでにカタチになったモノを買ってきて、揚げて作るコロッケ』。おなじナラ、オークでも、それぐらい違った世界です。」
「それでも日本の森でそだった材を、大切につかいたい。その森が大切にそだてた材を、自分が大切にカタチにする。森から食卓までの点たちを、きれいな一つの線にするコトにこだわりました。」
最後に、薗部さんがものづくりで大事にしていることを教えてください
薗部さんからは、まず最初にシンプルな一言が返ってきました。
「『木のうつわと道具は主役ではない』。これだけを大事に、モノづくりをしています。」
「うつわにしても道具にしても、それと『なにか』がなければ成り立ちません。うつわであれば盛り付ける料理、道具であればそれを使う人と一緒になって、初めて成立します。私たちは決して、飾っておくような芸術品をつくるわけではありません。暮らしのモノをつくっています。」
「だからこそ暮らしに基づき、デザインが『何か』に溶けこむように、モノづくりをしています。できるだけ引き算を重ねて、ときに伝統や技術の紹介も引いて。お皿なら、盛りつける美味しい料理を、もっと美味しくできる、見せられるように。それを大事にしています。」
インタビューを終えて:暮らしに馴染む、子供のための「ナラパン皿」
薗部産業の薗部弘太郎さんが、息子さんのために作った「ナラパン皿」。素材選びから加工に至るまで、製造工程のすべてに、薗部さんのものづくりのこだわりが詰まっていました。使う人のことを考え抜き、引き算を重ねた、木工屋としての想いを感じられる温かなうつわです。
今回のつくり手の商品一覧
今回ご紹介したものは、つくり手さんご自身用のため非売品となっております。現在お取扱いしている商品は下記のリンクをご覧ください。いずれも木のぬくもりが優しく、ずっと使っていけるものばかりです。
【2021年6月追記】
お客様のリクエストにお応えして、「丸パン皿 ナラ 20cm」を作り販売開始しました。ぜひご覧ください。
文・構成/上野智美
スタイルストアのお客さまに、日々の暮らしをアップデートするコツや、商品の選び方などのノウハウをご紹介するコラムをお届けしています。