バイヤーからのお便り
マニアだからこそ出会えたカディ村とモスリン兄さんのおはなし

こんにちは、バイヤー楠です。今年は酷暑日という言葉が新たに生れるほど、記録的な暑さが続いています。今年から当店でお取り扱いを始めたインド綿のモスリンのアイテムは、そんな夏にぴったりのアイテム。さっそくつかい手のみなさんからは絶賛のお声が届いています。
実は当店のモスリンの服の販売は、インドとの深いつながりのあるブランドkapuwa(カプワ)とのコラボレーションで実現したものです。モスリン生地は超が何個もつくほど希少なもの。kapuwaのデザイナーの宮本さんは単身でインドに乗り込んで、現地の方との関係性を築き、当店だけでは絶対に作ることができない希少な生地の服たちを、作り上げています。このコラムでは、宮本さんへのインタビューで判明したあんなことやこんなことをご紹介。キーワードは「カディ村」、「モスリン兄さん」です。
kapuwaとカディの出会い

kapuwaのお取り扱いを始めたのは、当店がまだ代官山に店舗を構えていた2015年頃の事。その当時からこのブランドは、手紡ぎ、手織りで作られたカディコットンを使用した服作りをされていました。当時の私はカディコットンの存在を知ったばかり。何を見ても誰に聞いても、「カディは灼熱の国インドで生まれた生地で風通しも良く夏に最適だけど、なかなか手に入れにくい」という情報ばかりが目につきました。

その一方でkapuwaは、上の画像のようなカディコットン生地のアパレルや雑貨を次々とリリース。商社でもない個人で立ち上げたブランドが、どうやってこの希少生地を手に入れているのか、不思議だったのです。そこで、今回のインタビュー時に、当時私が抱いていた疑問を宮本さんにぶつけてみました。
バイヤー楠:宮本さんがインドと深い繋がりを築くようになったのは、何がきっかけだったんですか?
宮本さん:私、服作りを学んだあと、アパレル会社で3か月研修期間を経て、すぐに独立しているんです。その後は舞台衣装とかヘアショー用の衣装をフリーで手掛けるようになったんですけど、衣装用の生地探しで日暮里とかの生地屋を巡っても、なかなか自分が好きな風合いの生地に巡り合えないことが多くて…。「もっと素朴な風合いの生地はないですか?」って色んな人に聞いてまわってました。
宮本さん:そうしているうちに、「そんなに生地が好きでこだわりがあるなら、インドに行ってみたら?」とアドバイスをくれた方がいて。さらにはインドの知り合いを紹介するよっ、て言ってくださった方もいたりと、インドへのご縁が動き始めたんです。

木綿の生地が好きという宮本さん。当時海外は未経験。英語も話せないのに、作りたい服のデザインを20~30個と分厚い辞書を胸に抱え、インドに行ったのだそう。そこで最初に出会った工場との出会いが、今のkapuwaのものづくりを支えることになったのだそうです。
カディ村とモスリン兄さん

宮本さん:インドに行ってみたら?とアドバイスをくれた方がご紹介してくれた工場のオーナーさんからは、考え方とか働き方とか生きる意味とかインドの神様の事とか、とにかく色々なことを教えてもらいました。インドはカースト制で自分たちの身分は生まれた時から決まっているんですが、このオーナーは、自らの力で農民カーストからのぼっていった現地ではちょっとした有名人。南インドに生地の修行に行き、生地を触っただけで「これは何番手のどんな糸か」が分かる方でした。

そしてオーナーの息子さんも、同じ修行を積んでいたんです。息子さんは私と同じ歳だったのもあり、結婚式に参加したりとプライベートでもいい関係が続いています。そんなファミリーが、生地を探し続ける私に紹介してくれたのが、村人が全員カディ生地を作ることに携わっている、通称「カディ村」でした。

宮本さん:ある日、すごくいいカディ生地を作る村を見つけたと連絡が来たんです。で、そこに来週行ってみるんだけど、一緒に行かない?って(笑)。もちろん最初はえ?てなりましたけど、すぐに「行きたい!」って返答して。とにかく急いでフライトのチケットを取っていつもの工場で合流。そのあと飛行機や車を乗り継いで12時間かけて到着したのが、通称カディ村でした。代々生地を洗う家、経糸を整える家、緯糸を整える家、糸巻をする家と、役割を分担しながらカディ生地を村全体で作っているところだったそう。

3日間滞在したそうですが、その間に日本では手にすることのできなかった糸や生地を見せてもらい、村の人の家に招待していただいたそう。

ご飯食べさせてもらいながら、楽しい時間を過ごしたのだけど、同時にそこで初めて村の抱える跡継ぎ問題や低賃金問題も知って、自分でもできることはないのかって考える機会になったのだそうです。
バイヤー楠:生地に強いこだわりを持つ宮本さんだからこそ引き寄せたカディ村との出会いですが、そこから更に希少なモスリンとの出会いはどういった経緯なんですか?
宮本さん:モスリンは実はこのカディ村で作られています。村のカディ生地を使うようになって数年が経過した頃、「すごくいい生地ができたよ」って言われてみたのがモスリンでした。モスリンは糸が細すぎて、誰もが作れる生地ではないのですが、この村に出入りし始めた頃はまだまだちっちゃかった子が大人になって、修行して、モスリン生地を作れるようになったって流れなんです。その職人の事は、愛情をこめてモスリン兄さんって呼んでいます(笑)。はじめてモスリンの生地を触った時のワクワクは、今でも覚えていますね。
当時、モスリン兄さんは家が無かったんだそう。モスリンで家を立てるのが夢なんだって話を宮本さんにしてくれたので、「じゃあ、私はその夢を応援したいから、モスリンをもっと使うね」とはなしをしていたのだとか。出会った当時は幼かった子が大人になって修行を積んだ人にしかできないモスリンの職人になった事で、宮本さんの服作りの幅も広がったのだそう。昨年インドに行った時に、モスリン兄さんから、「kapuwaのおかげで、家が立ったよ!」っていって、家にご招待してくれたというお話もしてくれました。

宮本さんは「まずは生地をみて、その生地でどういうアイテムを作ったらいいのか」を熟考して服や雑貨を作るのだと言います。インタビュー中も「織りたてほやほやな感じの生地が好みで…」とか、「素敵な生地に出会えると思うと、とにかくワクワクが先立ってしまって貯金がわずかなのにインドに行ってしまった…」と生地マニアならではのワードがポンポン出てくるのです。

上の画像は一般的な手紬の糸(左)とモスリンの糸(右)を並べたもの。驚くのは、実はこの2種類の糸は同じメーター数なんです。モスリンの糸が細すぎて、糸の時点ですでにボリュームが全然違うんですね。

極細の超長綿を手で紡ぎ手織りするモスリンは、一日でたった5mほどしか織れません。小さな村で生まれる生地は機械織の生地とは違い、均一感がありません。むしろそれが風通しの良さや蒸れなさにつながるのですが、それを不良品とするメーカーも少なくないのです。生地の個性をしっかりと把握し、それを最適なアイテムにして販売するkapuwaは、カディ村の生地を使い続けることで、村の人がものづくりを続けられる環境を与え続けたんですね。

改めてこうやって宮本さんにお話を聞くと、当店とkapuwaのコラボレーションで生まれたアイテム達は、生地マニアのブランドとのコラボレーションだからこそ実現できた、超がいくつもつくいい服だという事が分かります。当店のつかい手のみなさんは、肌触りや着心地を大切にしている方がとても多いと思っています。そんな方にこそ、ぜひ手にしていただきたい逸品です。
同じkapuwaとのコラボレーションで生まれたカディの柄物はこちら

ショッピングユニットでバイヤーをしています。
スタイルストアの商品によって、どこかで誰かがちょっとだけ幸せになればいいなと思ってバイイングをしています。それだけが私の大きなこだわりです。