『Squeeze(スクイーズ)』は1963年に創業した大関鞄工房の看板ブランド。大関勉さん(43歳)は、5歳年上の兄とともに家業を支える。平日は工房で革裁ちや縫製、ショップの接客に勤しみ、週末は房総の海に出かけ、サーフィンに明け暮れる。『イケメン職人』という呼び方がぴったりな好青年だ。
父の背中を追い続ける、一途な職人兄弟
「ぼくは次男だし、先に兄が父の下で働いていたから、
『家業を継いでほしい』といわれたことはないんです」
父の仕事を間近に見ながら育った勉さんにとって、
バッグ職人になることは、ごく自然な流れだった。
勉さんが大学生だった1990年頃は、バブルの絶頂期。
同級生は一流企業からの内定をどんどんもらっていたが、
鞄工房の次男は、会社員という安定した道を選ばず、
まず、バッグの問屋に入り、営業の経験を積み、
1年半ほど勤めた後、大関鞄工房に入社した。
「入社した頃は景気がよくて、ブランド物のバッグが
飛ぶように売れていた時代です。
でも、時代が変わって、いまはブランドではなく、
雰囲気や素材感でバッグを買うお客さんが増えました」
「そのせいか、浅草橋あたりの革問屋に行くと、
若いレザークラフトの作家さんをよく見かけます。
自分の好きな物を自由に作れるのは正直うらやましい。
けど、うちはメーカー。職人さんも抱えているので、
個人的に興味のある物ばかり作ることはできません」
そういいながらも、
プライベートでは自転車のサドルバッグなど、
ついつい革で自作してしまうそうだから、
よほどこの仕事が好きに違いにない。
「入社して19年目になりますが、まだ先代はこえられません。
自分なら『これは糸が切れないから大丈夫』と思う部分も
こっそり後ろから補強していたり・・・。
効率やコストより、『いいものを作る』ことを大切にする、
父の変わらない仕事の姿勢に、いつも反省させられます」
親子のあうんの呼吸が高品位なバッグを生む
勉さんの父、繁さんは78歳になるいまも、
毎日ミシンに向かい、革を縫い合わせている。
親子とはいえ、職人同士の間柄、
仕事中に口をきくことはめったにない。
しかし、集合写真のフレームにおさまった3人は紛れもない家族。
下町っ子らしい陽気なお兄さんにつられて、微笑むお父さん。
家族経営らしいのんびりとした雰囲気があるが、
バッグ作りに対してはとてもシビアだ。
たとえば重さ。
普段はバッグの重さなどあまり意識しないが、
勉さんは、使い勝手に大いに影響するという。
「バッグが重いと、知らない間に疲れますからね。
だから『ここのは軽いね』っていわれるとうれしい。
軽くするために強度を損なわないギリギリの薄さまで
薄く漉(す)いた革を使うようにしています」
一方、兄の敏幸さんは、対面販売の大切さを強調する。
「お店での接客を通して得たお客さんの意見を吸い上げ、
さらによいものを作っていけるのがうちの強みです。
いまは女性物が中心ですが、今後は男性用のちょっと
マニアックなバッグも少しずつ増やしたいですね」
父から受け継いだ仕事と技に誇りを持つ息子たち。
『スクイーズ』のバッグは、繊細でおとなしげに見えるが、
イタリアの職人にも通じる熱いスピリットで満たされていた。