旅情を覚える博多の夜に

先日、9か月ぶりに新幹線に乗った。
行先はどこでもよかった。

いや、そうじゃなくて、福岡の博多だ。

ナインアワーズ博多駅前が新たにできたこともあったからだが、
久しぶりの遠出は、やはり否が応でもテンション、ガチアガル。
早割りでかなりリーズナブルに、グリーン車を入手できた。

朝イチに名古屋を出発すると、11時前には博多へ着いた。
そのまま客先である「長浜」へ。




そう、長浜ラーメンだ。(なにしにきたんだ)
ただ、ここら一帯に漂うその香りに麻痺をしたのか、

(そういえば、出張ってこうだったな)と都合よく思いなおし、
近隣の、「そんなに混んでいない方」の店にふらりと入った。




商談前ではあるが、こういう時のマスクは都合がいいわけで、
ゴリゴリのとんこつを食べることができる。
それでも、少しだけ抑えめで。

さて、無事?に商談を終え、どうしようか、と考える。

数名の知人に連絡をしていたが、あいにくタイミングが合わず、ご一緒できず。
で、知人から教えていただいた「おすすめの店」を探すため、
西中洲のあたりをウロウロしていると、ようやくその店があった。

扉を開けようとして、取ってに手をかけて、中の様子を覗くと、
どうやらどこかの団体で貸し切られているようだ。

さて、コマッタナ。。。

その日は、台風の影響もあって、九州地方は激しい風雨に見舞われる荒天。
雨は強くなる一方だが、途方に暮れつつ、
不慣れな界隈を心細くなりながら、ぐるっと歩き回った。

ちょうど腹も減ってきたいし、もうどこかに決めて一杯やりたい。
玄界灘から取れたての海の幸もいいし、焼き鳥などの串ものもいい。
さすがに鍋を一人で、はどうかと思うが、この際、それも選択肢に入れておく。

偶然、
この店にも出くわした。

「カウンターでも空いてればいいんだけどね、今日はいっぱいで、申し訳ない。」

ミシュランを獲っているだけあって、それほど大きくないお店だが、
大勢のスタッフが厨房にいる姿が伺えた。
予約の取れない店だと聞いていたから、仕方ないかとあきらめる。


さぁ、1周したところで、どの店に入るかと考え、
1軒の気になる店を見つけた。
なんだか、佇まいがとても風情があってよさげだ。

正確に言うと、実はその店は、一度通り過ぎていた。
めぼしこそ付けたが、正直、入りやすい雰囲気ではない。
しかし、こうなっては、覚悟を決めようと思う。

店先に掲げられた大きな暖簾が風にヒラっと揺れ、
わずかに中の様子が伺えたが、他に客がいるようには見えなかった。
やっぱりメッチャ入りにくいけど、意を決して暖簾をくぐる。

すると、齢70ほどのオヤジさんと女将さんがいるのが見えた。
しかし、親父さんは、ちょうど客からの予約電話を取っていた。ガラケー

女将さんと目が合い、「一人ですが、いいですか?」と言った。
店内は案の定、誰もいなかったから、入れるものだとわかっていたが、
女将さんからの反応は意外なもので、やや困惑している。

オヤジさんに目配せをするが、
予約の電話で手帳を取りに奥へ引っ込んでしまった。
なかなかの緊張感が走る。

ほどなくして、電話を終えて出てきたオヤジさんに、
女将さんが、お客さんですが、、、と気を遣うようにこちらを促した。
親父さんが、はぁ?と振り向き、チラッと目があった。

「うちは予約だけだから。今日はダメだ。」

そう言われる気がして、覚悟した。
しかし、店には誰もいない。
いいじゃないか、とも思った。

とても長い時間に思えたが、思い返したら数秒だった。
オヤジさんは一言も言わず、いや、女将さんには言ったのかもしれないが、
2段ほどの階段を降り、スッと厨房へ入っていった。

女将さんは、「すみませんねぇ」というような表情を浮かべながら、
手前の席に手を向け、「どうぞ」と言った。

どうやら、入店試験に無事、合格したようだ。

店にメニューというのはなく、馬の肉のコース1種類のみ。
だったら帰る、などという、無粋なことはできないし、
覚悟を決めて、「わかりました、お願いします。」と告げた。

そういえば、実は、ここへ来る前に、
照和で一杯、飲んでいたこともあって、
初めから、お酒をいただくことにした。
あれなかったら、つまり、素面であの暖簾はくぐれなかったことを思い出す。
(あれ、酔ってた勢いだったか。)



厨房から、オヤジさんがチラリチラリこちらを一瞥するのがわかる。
こんな日に、一見の若造の客が、
いきなり、ひやおろしという選択が気になったのかもしれない。

そして、前菜が運ばれたのだが、これが果てしなく、びっくりするくらい美味い!
いや、「馬」だからじゃなくて、ホントに!!
味わってる雰囲気も、それとなく出した。美味しんぼか。

しばらくしても、まだオヤジさんのチラチラ目線が気になったが、
その理由が、そのあと、すぐに理解できた。

「おかわり?」

ふと、オヤジさんがカウンター越しに声をかけてきて驚いた。
そうか、こちらのグラスの様子を見ていたのか。

「え?あ、はい、じゃ、次は、山田錦の方に」

それを聞いたオヤジさんは、表情を少しも変えず、
スッと女将さんへ目配せ、したかしないかのタイミングで、
女将さんはもう新しいグラスを手に取ってくれていた。

(あー、ここはいい店だね)


このお造り、すごいでしょう。



一人でこれを焼くって、贅沢。



結局、〆のご飯ものまで、すこぶる馬料理を堪能し、
お酒は、2合×3杯飲んで、すっかり気分がよくなっていた。

帰りがけ、オヤジさんが板場から出てきて、
店内に掲げてある、役者の隈取を嬉しそうに紹介してくれた。
あと、小久保のバット。「後輩なんだ。よく来るぞ。」と自慢げだ。

名刺交換をし、出張で名古屋から来ていると伝えたら、
驚いたことにオヤジさんは昔、百貨店の寝具売り場にいたことがあるそうだ。
そして、当時、ウチが取引していたメーカーもよく知っていた。
なんという、ご縁だろうか。枕って本当に使えるなぁ。(ほんとなにしにきた)


ステイホームが続き、世の中はオンラインでの生きる道を模索している。
ただ、この夜に起こった出来事は、どうだろう。
月並みだけど、やっぱり、旅は、いいでしょ。
どうにも心が豊かになる。

「2階も10名くらいは入れるからな。」って教えてくれた。
いつか、みんなで行きたいな。
今度は、オヤジさんに

「おう、いらっしゃい。出張、ご苦労さん。」

そう言ってもらえるかしら。



さて、こんな話の終わりは、たいてい暖簾をくぐると晴れて、月でも出ているもんだが、
小説のようにはいかず雨はさっきよりも激しさを増し、
コロナの影響を受けている、中州の喧騒ではそれをかき消すわけもなく、
人気のない路地を歩いて、勇次へ向かったのでした。

まくらのキタムラ
北村圭介


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日本の、元気な「おはよう!」を創ります。

北村 圭介
つくり手
北村 圭介
きたむら けいすけ
プロフィール
1979年、名古屋生まれ 。大学在籍中にアメリカで語学留学。卒業後は家業である大正12年創業の寝具メーカーに入社。 開発と営業職を経て、2009年、代表取締役に就任。まくらをはじめとする寝具の企画・製造・販売を一貫して行い、「まくらのキタムラ」のブランディングを担う。
メイドインジャパンプロジェクト愛知支部代表
つくり手がつくるGuideBook 名古屋ガイドブック
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