時代は空前の手作り雑貨ブーム。インターネットや手作り市を通じ、素人でも気軽に作品を売ることができるようになった。プロとアマチュアの境界線がなくなってたわけだが、本職の作り手も負けてはいない。『ビアベリー』は地場産業の底力に、若者らしい遊び心が加わった国産バッグブランドだ。
バッグ屋とベルト屋で働く若者がプライベートで意気投合
地場産業の工場で働く職人というと、
あか抜けない印象があるが、
いまどきの若手職人は、ロードバイクで通勤、
服装もショップ店員のようにファッショナブルだ。
「実はぼくらの接点は自転車なんです。
マニアには有名な専門店が浅草にあって、
ふたりとも、そこの常連客でした。
おない年でしかも同じ皮革業界で働いていたので、
ときどき一緒に飲みに行くようになったんです」
そう話す若井啓考さん(36歳)は、
高校時代、自転車部に所属していた筋金入りの自転車好き。
小山尚貴さん(36歳)は専門学校時代からの趣味だ。
自転車が共通の接点というふたりだが、
「飲みながら話すのは、もっぱらバッグの話」
というのがおもしろい。
「こんなバッグがあればいいよね、って感じで、
飲みながらアイデアを出しあう、それだけなんですが、
ふだん、OEM(相手先ブランド生産)の仕事をしている、
ぼくらには、その時間がすごく楽しかったんです」(若井さん)
ふたりの思いは、いつしかブランド設立にかたむいていく。
若井さんがつとめるバッグメーカー(株式会社ヤング)では、
以前から自社ブランドの話が持ち上がっていた。
小山さんは都内のベルトメーカーで職人として働いていたが、
バッグを作りたいという気持ちが以前にまして強くなっていた。
2012年の秋、小山さんは株式会社ヤングに転職。
翌年の春には若井さんとバッグブランドを立ち上げた。
「思いつきのアイデアを製品化するとなると、
デザインやコストなど、いろんな制約が出てきます。
だからこそビール片手に発想する自由さを大切にしたいと思い、
ビアベリー(ビール腹)というブランド名にしました」(小山さん)
海外のスーパーブランドも認める、高度な技術力を継承
そんなふたりの思いがつまったバッグが
「ダブルフラップ」シリーズである。
ダブルフラップは2枚の上蓋が交差した作りが特徴。
バイカーズ系の財布ではよく見かけるデザインだが、
ショルダーバッグに応用したところがおもしろい。
「まさにビールを飲みながら出てきたアイデアだけど、
サンプルを作ると、意外に悪くなかった」と小山さん。
若井さんは「内部をふたつに仕切ることのできる構造が、
タブレット端末の携帯にぴったりだ」と思ったそうだ。
ダブルフラップバッグがよくある個人ブランドと違うのは、
“メーカーの技術力”がきちんと生かされているところだ。
例えば、バッグの周囲の「まとめ縫い」という部分。
厚い革をふっくらと立体的に縫いあわせる技術は、
同業者から「まねできない」といわれることもある。
ふたりが働く株式会社ヤングは、
カジュアルバッグを得意とするOEMメーカーであるが、
持ち前の技術力を買われ、
海外の高級ブランドバッグの修理工場に指定されている。
若井さん、小山さんも修理の仕事を通じて、
日夜、バッグ作りの技を磨いてきた。
「修理に送られてくるバッグの状態は千差万別です。
適切な修理を施すには、バッグの構造を理解し、
バッグ作りの全工程をマスターしていなければなりません。
他社では腕ききの職人が修理を担当すると聞いていますが、
うちは真逆。新人研修は修理の仕事からはじまります。
だからマイスター的な総合力を持った作り手が多い。
それもビアベリーの強みといえますね」(若井さん)
同業者には生産拠点を海外に移した企業が少なくない。
だが、同社はマイスター的なバッグ作りを継承するため、
社内に職人を抱え、国内生産を続ける。
小山さんも「ビアベリーはコスト重視のブランドではない。
互いの顔が見える関係性の中でもの作りをしたい」という。
目下の目標は、都内にファクトリーショップをかまえること。
ふたりのお腹はビールを飲むたびに、夢で大きくふくらむ。